動画サービス利用時計測から見る、緊急事態宣言発令後のインターネット品質への影響

前回公開した初期分析 では Web VideoMark を使って動画サービス利用時の品質データの計測に協力頂いている方から集められた、2〜3 月のログデータを対象とした分析を行いました。今回は続けて 5 月 10 日頃までのログデータを対象とし、緊急事態宣言の発令前後からゴールデンウィークまでの変化を確認した結果を紹介します。

背景: インターネットトラフィックの急増

緊急事態宣言に伴うテレワークや在宅遠隔授業、家庭でのオンラインエンターテイメントの利用の増大を背景にインターネット通信トラフィックが大きく増大していると各通信事業社が発表しています。

これらの報告を総合すると、総務省 インターネットトラヒック流通効率化検討協議会 に書かれているとおり、4 月中旬の時点で 2 月下旬に対して平日日中は 3〜5 割、休日日中は 1〜2 割、夜間は平日・休日問わず 1 割程度、国内のインターネットトラフィックが増加していることになります。

ネットワーク通信品質 (通信速度と応答時間) の推移

では、それに伴い実際のユーザが実際のサービスを利用したときの通信品質にはどのような影響があるのか。クライアント側でサーバとの通信速度 (動画ファイルダウンロード時スループット) と応答時間を計測した結果を確認しました。

2〜5 月の動画配信 CDN サーバとの通信速度と応答時間の平均 (視聴毎平均の日付毎平均) の推移は次のようになりました。前回の記事で紹介したとおり、2〜3 月については平日と土日祝日の差や計測のブレは見られるものの、極端な変化傾向は見られません。しかし緊急事態宣言が 7 都府県を対象に発令された 4 月 7 日やそれが全国拡大した 16 日の辺りから大きく通信速度の低下と応答時間の増大が見られます。

平均通信速度 (視聴毎平均の日別平均)

平均通信速度 (視聴毎平均の日別平均)

平均応答時間 (視聴毎平均の日別平均)

平均応答時間 (視聴毎平均の日別平均)

例えば 3 月 26 日の平均応答時間には大きなピークがありますが、これはその日の計測のうち約 6% の 1 時台の平均が 5000ms 以上、同じく約 9 % の 0,21 時台の平均が 2700ms 以上と、極端に応答時間の長い環境で視聴したサンプルが多く含まれていた日となっています。

3 月 23〜29 日の平均応答時間 (1 時間平均)

3 月 23〜29 日の平均応答時間 (1 時間平均)

計測サンプルがまだ少ないことで日別にブレイクダウンすると外れ値の影響が大きいですが、ユーザレベルでのミクロ視点の計測として、実際に酷い通信環境での視聴を観測していることに意味があると考えています。マクロな結果を平滑化して見たいなら外れ値を除外して平均や移動平均を取ったり、ミクロに見たいなら逆に外れ値を対象とした分析も可能です (本記事中のデータでは外れ値に対する特別な処理は行っていません)。

月間平均 (5 月分は 10 日まで) を比較してみると、通信速度は 2,3 月の平均に比べ 4 月は 24%、5 月 (10 日まで) は 47% 低い速度が観測されました。同じく応答時間は 2,3 月の平均に比べ 4 月は 53%、5 月 (10 日まで) は 144% 長い時間となっています。

平均通信速度 (視聴毎平均の月別平均, 5 月は 10 日まで)

平均通信速度 (視聴毎平均の月別平均, 5 月は 10 日まで)

平均応答時間 (視聴毎平均の月別平均, 5 月は 10 日まで)

平均応答時間 (視聴毎平均の月別平均, 5 月は 10 日まで)

この結果は Web VideoMark を使って計測に協力頂いている方の計測結果を日別で単純平均したものですから、期間中に協力者母集合の変化 (端末数・計測数共に増えています)、協力者の通信回線の変化 (会社から自宅へなど)、動画配信サーバ側の変化 (混雑状況) などといった影響も含んだ結果です。計測時間も 24 時間均等ではなく日別に単純平均したため、混雑時間帯 = 利用者の多い時間の計測数も多いため、混雑時間帯での計測結果に偏った結果とも言えます。

そのため単純にインターネットの速度が全体的に半分に、読み込み時間は 2.4 倍になったというわけではありません。とはいえ、サーバ側は YouTube などの強力で安定した CDN を対象とした計測であり、実サービス利用時のインターネット品質・混雑状況を反映したものと言えるはずです。

YouTube での体感品質の推移

通信速度低下や応答時間の上昇が動画視聴の体感品質にどの程度悪影響があるかというと、前回の記事にも書いたとおり、動画再生に必要なビットレートは DL 通信速度に対して一桁以上小さいため、大きな影響が見られません。前回書いた通り利用サービス分布に変化があるため対象を計測数が一番多い YouTube に絞って今年上半期 (5月 19 日まで) の日次推移を確認すると次の通りです。

YouTube の平均体感品質 (QoE) の日次推移

YouTube の平均体感品質 (QoE) の日次推移

先ほどの応答時間同様に何らかの外れ値計測となる利用環境の計測が多く含まれる日にブレがありますが、解像度・ビットレートの低下が生じるほど通信帯域不足になることが少ないため、大きな変化傾向が観測されなかったものと考えています。

注: この数値は動画視聴の開始から終了までの体感品質を解像度・ビットレート・一時停止時間などから推定計算したものです。ページの読み込み、遷移などの時間が延びることによるサービス利用全体の体感品質低下を計測したものではありません。

母集団と動画視聴数 (視聴行動) の推移について

前回の記事では 2,3 月のみを比較しましたが、5 月 10 日分までのデータを追加して平日と土日祝日の視聴数 (合計 28005 件) を 24 時間帯別に分けると次のようになります。

平日の時間帯別視聴件数

平日の時間帯別視聴件数

土日祝日の時間帯別視聴件数

土日祝日の時間帯別視聴件数

4 月以降は視聴数が全体として大きく伸びています。計測協力者 (アクティブユーザ) 数は 3 月頭から 4 月頭で約 1 割増えましたが、4 月の動画視聴数は 3 月の約 2.2 倍に増えています。緊急事態宣言に伴い動画配信サービスの利用が大きく増えたと考えられます。

時間帯の分布については 24 時間帯に分けるとバラツキが大きくなりますが、前回の記事に書いたとおり、3 月以降はそれまで視聴数が少なかった平日昼などにも動画視聴が少し増えているようです。

計測へのご協力のお願い

Web VideoMark プロジェクトでは、実際のサービス利用時のネットワークや体感品質を計測・推定するデータを、インターネット調査に協力いただけるボランティアによって計測・収集し、その結果をオープンデータとして公開しています。本記事で紹介したような分析結果チャートも、統計情報ページ に随時追加掲載しています。

興味を持たれた方はプロジェクトページをご覧いただき、Chrome や Edge などの対応ブラウザに拡張機能をインストールし、普段通りに動画を見てください。他に何もする必要はありません。誰でも簡単に参加できるインターネット品質調査ですので、ぜひ一人でも多くの方にご協力いただければと思います。

また、ネットワーク事業者や動画サービス提供者あるいは研究分析をされる皆さんには、より詳細なデータ提供やご説明も可能ですので、ご関心のある方は WebDINO Japan までお問い合わせください。